性転換編・・・手術前夜 性同一性障㊵
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性転換編・・・手術仲間との出合い 性同一性障害㊴ - 性転換子の生き様
バンコクでちょっとした観光を楽しんだ翌日、私は病院へ向かった。
Sさんの車でバンコクの騒がしい街中を進む。窓から見える風景は東南アジアらしい雑多だけど活気のある風景。新しい物と古い物が、綺麗な物と汚い物がごちゃまぜになった街並みは私の好奇心をそそる物だった。
タイという国は女性と男性と第3の性のある国。私みたいなのや私と逆のパターンの人間が他の国よりは市民権が得られている国。全く差別がないわけではないけど、私もこの国で生まれていたら今みたいに卑屈にならなくてすんだのだろうか。なんて思いながら窓から見える風景を眺め続けた。
そうこうしているうちにバンコク市内よりも一層雑多な感じが増すエリアの中にある大きい病院に到着した。病院の名前は「ヤンヒー病院」
ここが私の変わる場所か~なんて思いながらSさんに促されて中に入る。病院内は日本の病院ほど清潔感があるわけではないけど、十分清潔で安心した。Sさんが受付で手続きを進め、それが終わると診察室に案内された。
部屋の中にいたのは今回手術を担当してくれるG先生。性転換手術では名の知れた名医だ。その人に日本から持ってきた書類を見せる。書類の中身は私の性同一性障害者としての診断書やエイズ検査の結果等。タイで性転換手術を受けるにはエイズ検査は必須らしい。性行為をしてなくても何でエイズになるかわかない世の中だから私も日本で受けていた。そして書類を見終わったあと診察の開始。診察といっても術部を見るだけ。もうすぐさよならする生殖器を先生に見せる。自分でもまじまじと見ない物を人に見られるのってなんか恥ずかしいなと思いつつ診察は終了。
診察室の前で待っているとSさんが診察の結果を伝えにきた。G先生が言うには私は希望している生殖器から女性器を作る手術ではなく腸から女性器を作る方がいいとのこと。女性器を作るには2種類の方法がある。
男性器を女性器に作り替える方法・・・負担が少ない分、元の男性器の大きさによっては出来上がった女性器の穴が小さめになる。
腸から作る方法・・・負担が大きい分、女性器の穴は結構大きくつくれる。
詳しくは下を見てね。
私は女性の戸籍をもらうために手術するだけだから穴の大きさなんてどうでも良かった。別に術後に誰かと性行為したいと思わなかったし。だから最初から自分の男性器を女性器に作り替える手術で予約してた。でも、G先生が言うには元の男性器が小さすぎて女性器の穴がすごく小さくなる可能性がある。せっかく作るんだしちゃんとした大きさのを作ったらどうか?という提案だった。
正直、腸をいじくるのは怖かったし断った。ただ女性器が出来さえすれば良かったから。なので当初の予定通りにいくことにした。
その後、すぐ手術ではなく夕ご飯を食べずに翌日の朝に手術となっていたのでこれから3週間ほどお世話になるであろう病室へと案内された。
エレベーターで上がったフロアは外国人向けのフロアで他のフロアよりも整った設備で作ってあるらしくスタッフはみんなタイ語、英語はぺらぺらだった。日本語も簡単な挨拶なら出来た。部屋も全員個室でそれも狭い個室でなくそこそこの大きさがあった。
正直日本の東京の狭いワンルームなんかより全然広く、それに加えて自分専用のトイレとシャワーまであった。日本でシャワーまである病室ってそうそうないだろうからその時点でVIP待遇で迎えられてるんだなって思った。
それもそのはず、今回の手術代はホテル代、飛行機代、代理店費用をのぞいても100万弱は病院にいっている。2016年のタイの平均年収が100万強だから、私の行ったときはもっと低かったはずだし、私の払った手術費っていうのはタイ人の年収よりちょっと多いくらいの金額になる。VIP待遇にならないわけがない。
ご飯もタイ料理、洋食、日本食(日本食はなんちゃって日本食がほとんどだったけど)から好きなのを選べたし、部屋にはWIFIが完備。テレビも無料といたせりつくせりだった。といっても術後2週間は寝たきりだからどれだけVIP待遇の部屋だろうと当分の間はその恩恵に預かれないんだけどね。
その日の夜は私にとっては普段の夜と一緒だった。明日、自分の生殖器が変わる日であり、それを手に入れられれば日本でも普通の人間として認めて貰えるという自分にとって重要な日だったのに何も物思いにふけることなくすぐに就寝した。