大学生編・・・性転換したら社会に出られるんやな 性同一性障害㊲
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大学生編・・・レインコートの中は裸Ⅱ 性同一性障害㊱ - 性転換子の生き様
結局夜の世界に飛び込む勇気は持てなかった。
多分だましだましやっていこうと思えばやっていけた気がする。
でもそれで性転換の費用を貯めても、何か色々もとには戻れない気がしたから。
だから、私は最終手段にでた。
残りのお金を家族に借りることにした。
本当は家族に内緒で性転換しようと思ってた。それで就職して、
「私、仕事やっときまったよ。」
なんて言うつもりだった。でも卒業まで残り4か月は切っており、卒業してからは行く場所なんてなかったから性転換してさっさと仕事を見つける必要があった。
卒業して実家になんて帰れなかったしね。私みたいなのは地元ではとても目立つから。
携帯の電話帳を開き、実家の電話番号を表示させる。
そこからかけるまでにどれだけ時間をかけただろうか。覚悟を決めてかけた。
電話口に出た家族は「どうしてるの?」っと近況を聞いてくる。
無難に答えながら大事な話があると前置きをして、家族に告げた。
「私ね。性転換しようと思うの。そうじゃないと生きていけないって分かったから。」
家族は少し黙ってそれから
「なんで性転換なんてする必要あるん?今でも女性として生活できてるでしょ?
仕事が決まらないのは不況のせいや。頑張って就職活動つづけたらいいやん。」
と想定通りの反応を示した。
私は今までに何があったかをゆっくり話した。
最初は頑張っていたこと。外資系は私みたいなのでも選考を進めてくれたこと。
私の実力不足では外資には行けなかったこと。国内企業を色々受けた事。
選考で面接が上手くいっても、グループディスカッションで上手くいっても進めてもらえなかったこと。はっきりと私みたいなのは対応に困ると言われたこと。
留年して1年間どうにかならないか模索したこと。でも性同一性障害という壁は努力ではどうこうできないって分かったこと。
言えることは全ていった。途中で泣いていたと思う。
「でも努力すればどうにかなるって。だってあんたは頑張って高校も卒業したし、今の大学だって行けたでしょ。あんたは頑張ればできるこやから、努力すれば絶対みのるって。」
家族も涙声だった。
「努力じゃどうにもならんのよ。性同一性障害ってそういうもんなんよ。もう私限界なんよ。」
「性転換の費用とかどうするん?」
「自分でも貯めてあるけど、いくらか足りないの。だから貸してほしい。」
最初は私の性転換費用を出すことは出来ないと突っぱねられた。それは当然だと思う。
私に男を捨てさせる。二度と元には戻れなくする事に手を貸すなんて許せるはずはなかったはず。家族にとって私はどんな生活をしてようが男っていう認識があったから。
でも、家族にも性同一性障害がそのまま社会に出れないっていう薄々分かっていたみたいなのか、
「性転換したらあんたは社会に出られるんやな。」
「うん。普通に社会出て働ける。」
「分かった。残りの費用はだしたる。」
家族が私の性転換を認めてくれた。認めてくれたというより私が家族の心を踏みにじって認めさせたんだと思う。でもこうでもしないと私は社会に出ていけなかった。
現在、私は社会人として働いている。上の言葉を守った。
ただ上の言葉を守るために私と家族が被った代償は大きい。
私は生きていくうえで必要な物は努力ではなく普通の人間に見えるかどうかという価値観こそが全てという考えに至り、色々歪んでしまった気がする。
家族は私を社会に出すために私の体を変えることを認めることで、私には計ることのできない色々な感情を持ちながら今の私と接してるんだと思う。
私の大学生編はこれで終わり。卒業までには性転換は出来なかった。そもそも性転換は術後も安静する必要があるし戸籍の取得は数か月かかっちゃうからね。